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 前編で「スカイアクティブX」エンジンの燃焼の基本を押さえた。後編では革新的な技術と部品を順に筆者の独断で解説したい。あまりに多くて紹介しきれないので、特に感動したものを厳選した。スカイXは、まさに革新技術の「宝石箱」である。

 まずは直噴インジェクター。ガソリンエンジンでは世界で初めて燃料噴射圧が100MPaに達した。超高燃圧なのでニードルの吸引力を高めるために、2段ソレノイドの構成とした。

 燃焼室のほぼ中央に設置し、10噴孔で気筒内に燃料を噴射する。インジェクターはマレリ(さいたま市)製で、すばらしい技術だ。

最大噴射圧100MPaの「超高圧」点火プラグを採用
最大噴射圧100MPaの「超高圧」点火プラグを採用
実際には最大70MPaに抑えて使っている。マツダの資料を基に日経クロステックが作成。
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 燃焼形態は「EGRストイキSPCCI」と「リーンSPCCI」で、噴射圧として30M~60MPaで多孔噴射する注1)。ノッキング(異常燃焼)しやすい領域では、最大70MPaで噴射するという。インジェクターの能力は最大100MPaだが、高圧ポンプの駆動損を大きくしたくないために噴射圧を抑えているようだ。

注1)前編で記したが、スカイXは運転状態(燃焼壁温度、吸気温度など)によって3種類の燃焼形態(燃焼モード)を巧みに切り替える。第1は一般的な燃焼で、理論空燃比(ストイキオメトリー、λ=1)の混合気による火花点火の火炎伝播(でんぱ)燃焼(以下、通常ストイキ)である。第2は、理論空燃比の混合気に最大35%の大量EGR(排ガス再循環)を加えたSPCCI燃焼(以下、EGRストイキSPCCI)。第3が、λ=2以上の希薄な(リーン)混合気としたSPCCI燃焼(以下、リーンSPCCI)である。

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 点火プラグは2つの吸気弁の間に設置してあり、カットモデルを見ると電極がかなり引っ込んでいる気がした。狙いは分からないが、プレイグニッション(早期着火)防止か、点火による「膨張火炎球」をあまり大きくしたくないためか。

 2つのSPCCIモードでは燃焼の前半、通常のエンジンと同じように火花点火で等方的に火炎伝播(でんぱ)している。マツダの技術者によると、火炎伝播は発熱量割合で30~50%くらいまで。後半は火炎伝播による「膨張火炎球」で未然領域を早く自着火させているという。実際に公表文献の熱発生率のグラフを見ると、従来の火炎伝播の割合は40%前後のようだ。

燃焼の半分強が圧縮着火
燃焼の半分強が圧縮着火
熱発生率の推移。クランク角で上死点の20°前から上死点まで火炎伝播で、その後圧縮着火に移行している。マツダの資料を基に日経クロステックが作成。
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 燃焼のうち圧縮着火は半分強で、あとは一般的な火花点火というわけである。「膨張火炎球」の大きさを最適化するために、点火プラグの突き出し量や燃焼室形状を工夫しているのかもしれない。