新型コロナウイルス感染拡大で、プロジェクトの進捗が危ぶまれた経験を持つ建築関係者は多いと思う。そんななかでも世界中でランドマークとなるような建物は次々と竣工し、新しい観光名所となっている。今回取り上げるのは、米国ニューヨークの超高層ビルだ。その華やかなしつらいやインスタレーションで、一般メディアでも取り上げられた。
インパクトのある意匠に注目が集まりがちだが、その背景にある技術的な検討はどうだったのだろうか? その空間を実現するために、どんな課題やソリューションがあったのか、思いをはせていただくきっかけになるとうれしい。当社のライティングデザイナーが紹介する。(以上、菊地雪代/アラップ)
米ニューヨーク・マンハッタンの地上400m近くの高さに、ガラスと鏡で覆われ、まるで万華鏡のように周囲の景色を映し込む展望施設が誕生した。超高層ビル「One Vanderbilt(ワンバンダービルト)」の最上部に設けられた展望フロア「SUMMIT(サミット)」だ。コロナ禍の2021年10月にオープンした。その前年、ひと足先に竣工したビルは、地上427メートル、市内で4番目の高さを誇る。
地下1階の入り口に始まり、地上91~93階までの全4フロア、総面積6000m2に及ぶこの展望台では、パノラマビューを提供するだけでなく、一連の体験ができるようになっている。その目玉といえるのが、アーティストのケンゾー・デジタルが手掛けた「Transcendence(トランセンデンス)」と呼ばれる、2層吹き抜けの展望フロアだろう。
ガラスのファサードに囲まれ、天井と床、柱が全て鏡面仕上げとなっているその空間は、空や眼下に広がるマンハッタンの景色を室内に取り込んで、無限に反射させる。その空間に立つ人と外の景色がイリュージョンのように交錯し、未来感のある没入体験を提供している。展望フロア全体の設計はノルウェーの建築設計事務所スノヘッタが担い、アラップは様々な光の体験をデザインした。
前例のない、ガラスと鏡張りの空間を実現させるに当たり、ライティングデザインは日中と夜間とでそれぞれ異なるパラメーターを設定し、検討する必要があった。まず日中においては、太陽光が複数反射することによるグレア(まぶしさ)や熱負荷が増す可能性を3Dモデルを使って解析し、視覚的・環境的な快適性を保てるかを検証している。
鏡面空間におけるグレアと視覚的快適性を評価する指標はないため、様々な従来指標による解析やリサーチ、モックアップによる検証を組み合わせながら行った。また、避難誘導灯などのサインが問題なく認識できるかといった、安全上の重要事項も検討。設計チームと協力して、壁の位置や空間の向き、照明や誘導灯の位置などを慎重に調整した。
昼とはまた趣が変わり、宝石をちりばめたような摩天楼の夜景を映し込む夜間においては、音響と相まってダイナミックな光のプログラムを提供している。ファサード際に設置された4本の柱に特注の双方向ミラーガラスを使い、その背面にプログラム可能なLED照明を設置することで、波のような動き、グラデーションや色々なパターン、きらめきなどの視覚効果をつくり、シークエンスによる照明演出を行っている。