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 航続距離よりもコスト優先――。ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の電気自動車(EV)「ID.3」のボディーや外板の金属材料を分析した結論は、“ほぼ鉄”である(図1~5)。多くの自動車メーカーは軽量化を目的に、EVにアルミニウム(Al)合金を使う。VWの新世代EVはその潮流に逆行するように、鋼板の多用というガソリン車時代からの伝統を踏襲した。

図1 分解したVWのEV「ID.3」
図1 分解したVWのEV「ID.3」
骨格や外板の金属素材は、ほとんどが鋼板だった。(撮影:日経クロステック)
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図2 運転席のドアを外しているところ
図2 運転席のドアを外しているところ
(撮影:日経クロステック)
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図3 フロントフェンダーを外したところ
図3 フロントフェンダーを外したところ
(撮影:日経クロステック)
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図4 高張力鋼板製のバンパービーム
図4 高張力鋼板製のバンパービーム
(撮影:日経クロステック)
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図5 バンパーは樹脂製
図5 バンパーは樹脂製
(撮影:日経クロステック)
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 日経BPがこれまでに分解調査したEVと比べると、日産自動車の2代目「リーフ」と金属材料の使い方が似ている。リーフは初代からプラットフォームを流用しているが、外装品などに採用していたAl合金製の部品を鋼板製に切り替えた。

 具体的には、フロントフードやフロントドア、リアドア、バンパービーム(バンパーレインフォース)が初代リーフではAl合金製だった。これに対して、2代目リーフでは、成形性に優れる440MPa級あるいはそれ以下の高張力鋼板をフロントフードやフロントドア、リアドアに用いた。一方、バンパービームは強度と軽量化を実現させるため、1500MPa級の超高張力鋼板を採用している。

 米Tesla(テスラ)の「モデル3」はAl合金と鋼板をバランスよく使い分ける。外板を中心にAl合金製の部品を採用し、骨格には引っ張り強さが980MPa級以上の超高張力鋼板を適用した。外板ではフロントフードや前後のフェンダー、前後左右のドア、荷室ドアにAl合金を使った。これらの部位にAl合金を適用したのは、同社の高級EV「モデルS」と同じある。

 一方、モデル3は、コストの増加を抑えながら全方向(前方、後方、側面)の衝突安全に対応するために、骨格にはAl合金を使わず、超高張力鋼板を適用した。前方衝突対応の面では、フロントフレームが超高張力鋼板製である。ただ、フロントフレームの先端は、Al合金製とした。前面衝突時にこの先端部分を変形させて、衝撃エネルギーを効率的に吸収するためである。

Al合金控えてコスト優先

 骨格からドア、フロントフードまで、ボディーや外板の金属材料を鋼板で固めたID.3。VW社長のHerbert Diess(ヘルベルト・ディース)氏は、「技術の進歩と規模の拡大でEVは安くなる。移動コストは(内燃機関車中心の)今日よりも下がる」と主張する。今後2~3年でEVによる利益が内燃機関(ICE)車と同等にするという同社の野心的な目標を達成するには、高コストなAl合金を多用するわけにはいかなかったようだ。

 だが、細かく分析していくと、骨格のある部分にAl合金を忍ばせていることが分かった。