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可動屋根付きの天然芝スタジアムを、32カ月という短工期でどうやって施工するのか。施工者は屋根とスタンドを同時に施工するスライド工法を導入した。まさに施工が佳境を迎えた現場の今を見る。

 「遅くとも2022年10月には天然芝を張りたい」。エスコンフィールドHOKKAIDOを施工する大林組・岩田地崎建設特定建設工事共同事業体(JV)の黒田陽史担当所長は、大林組の天然芝専門チームからこのスケジュールを聞いて、「難しい工事になる」と気を引き締めた。

 北海道日本ハムファイターズが新球場を使用するのは23年シーズンから。準備期間が要るので、22年末の竣工が必須条件だった。着工が20年5月なので32カ月しかない。

 北海道は12月中旬~3月中旬が厳冬期で工事の歩留まりは7割程度に落ちる。それが2年で計6カ月。ただでさえ短工期だが、芝の張り込みでさらに短くなる。芝を張る3カ月前には地中温度を調節する設備を敷設しなければならず、その後はフィールド上に重機を入れられない。つまり、22年6月には躯体、屋根、スタンドの施工を終わらせる必要がある。この短工期をどうやって解くかが施工計画の腕の見せどころだった。

[屋根の急速施工]
外で組み立ててスライドさせる

 工期に余裕があれば、鉄骨トラスの屋根はフィールド直上に仮設の支保工を組み、その上で架けるのが定石だ。しかし、支保工を組むのに数カ月が必要で、躯体工事に影響が出る。この工期では間に合わない。

 大林組JVが採用したのは、屋根と躯体、スタンドを同時に施工する方法だ。屋根の支保工をスタジアム外部で組み、屋根をいくつかに区切って、その上で組み上げる。屋根の施工と同時に、屋根が載る構造体であるガーダー躯体や、ガーダーの間を埋めるスタンド架構を施工する。

 スタジアムの屋根は固定屋根と可動屋根という2種類で構成する。固定屋根は躯体の上に仮設のレールを、可動屋根は竣工後も使用するレールを敷き、組み上がった屋根をレールでスライドさせる。所定の位置まで移動させ、分節した屋根同士を結合させる〔写真1図1〕。

〔写真1〕スライド工法で屋根と躯体を同時施工
〔写真1〕スライド工法で屋根と躯体を同時施工
屋根の支保工がフィールド上にあれば、スタンドなどを施工する重機を入れられない。躯体と同時施工するため、屋根をスタジアムの外で組んでスライドさせる方法を採用した(写真:大林組・岩田地崎建設JV)
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〔図1〕屋根を分節してスライド
〔図1〕屋根を分節してスライド
固定屋根、可動屋根ともに、それぞれ屋根を分節して組み上げる。斜線で表した屋根がスライド前の状態。固定屋根をスライドさせて結合し、その後で可動屋根を組んで固定屋根の上をスライドさせる(資料:大林組・岩田地崎建設JV)
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 10月には、ほとんど誤差なく固定屋根の結合を終えた。12月時点で可動屋根の施工に取り掛かっている。