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 鹿島と鹿島道路(東京・文京)は2021年8月31日、両社が出資した熱海インフラマネジメント合同会社を通じて静岡県熱海市にある有料道路「熱海ビーチライン」を取得した。売り主はグランビスタホテル&リゾート(東京・千代田)などだ。21年5月に実施した入札には、複数の建設会社や投資会社が参加。鹿島は100億円超で取得したとみられる。

相模灘に面して延びる熱海ビーチライン。鹿島が設計、施工して1965年に開通。その後は、鹿島道路が路面の維持補修工事などに携わってきた(写真:鹿島)
相模灘に面して延びる熱海ビーチライン。鹿島が設計、施工して1965年に開通。その後は、鹿島道路が路面の維持補修工事などに携わってきた(写真:鹿島)
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熱海ビーチラインの位置図(資料:日経不動産マーケット情報)
熱海ビーチラインの位置図(資料:日経不動産マーケット情報)
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 熱海インフラマネジメントには鹿島が90%、鹿島道路が10%を出資する。鹿島執行役員土木管理本部土木企画部長の太鼓地敏夫氏が社長に就いた。料金収受員など27人をグランビスタから引き継ぎ、長期にわたって道路を所有し、運営・維持管理していく。

 熱海ビーチラインは、三井観光開発(現グランビスタホテル&リゾート)が道路運送法に基づく一般自動車道として国から免許を受けて開発し、1965年に開通した。全長は6.1kmで、相模灘に面した海岸沿いを通る。熱海インフラマネジメントは今回の取得に併せ、熱海ビーチラインの自動車道事業の免許を新たに取得した。

 熱海ビーチラインの山側には、無料の国道135号が並走する。しかし、国道は東京圏から熱海・伊豆方面に向かう観光客などで深刻な渋滞が生じやすい。熱海ビーチラインは国道の渋滞を避けたり、眺望を楽しんだりする車などが通る。

 地元の住民も日ごろから利用する熱海ビーチラインの需要は底堅いものの、通行台数は下落傾向にある。2001年度は年間354万台だったのに対し、11年度は287万台と2割近く減少。新型コロナウイルス感染拡大前の19年度は254万台に落ち込んだ。伊豆地域を訪れる観光客の減少や、東名高速道路沼津インターチェンジなどから静岡県下田市に向けて伊豆縦貫自動車道の整備が段階的に進んだ影響などが考えられる。

増収策は容易でない

 普通車の通行料金はかつて250円だったが、13年2月に290円、14年4月に300円、19年12月に470円と値上げした。いずれもグランビスタが国土交通省に申請し、認可を受けた。通行台数の減少で悪化した収益の改善や、台風被害による復旧費の確保、消費増税への対応などが値上げの理由だ。

 熱海インフラマネジメントは当面、普通車470円の通行料金を維持する方針だ。普通車の通行料金に19年度の通行台数を単純に乗じると、年間の通行料収入は約12億円。通行料収入から道路の運営経費を除いたネットキャッシュフローは7億円ほどになるとみられる。

 ただし「コロナ禍が収束しても、これまでの値上げの影響や長期的な人口減少などに伴って、通行台数はさらに1、2割ほど減ると覚悟している」。鹿島新領域・公民連携マネジメント部PPP・再生エネルギー事業グループ長で、熱海インフラマネジメントの副社長を務める丹保岳人氏は慎重な見通しを示す。

 三井観光開発は02年5月、熱海ビーチラインを約126億円で特別目的会社(SPC)の有限会社熱海ビーチラインに売却して証券化。SPCは、道路をリースバックして運営する三井観光開発から受け取る賃料収入を元利払いの源泉とする総額約120億円の債券を発行した。当時の通行料金は現在よりも安く、債券発行時に想定した年間の通行料収入は約8億9000万円、ネットキャッシュフローは約5億5000万円だった。

 「最近は、熱海が観光地として再び注目されている。地元と連携して、熱海ビーチラインの需要を底上げしたい。早朝のCM撮影などに使ってもらい、使用料を得るといった案もある。非接触型の料金収受システムの導入も検討していく」と丹保氏は言う。とはいえ、全長が短く、海と山に挟まれた道路での増収策は容易でない。沿道にサービスエリアやパーキングエリアを整備して店舗の売り上げを得ようにも、海面を埋め立てるなどしない限り、十分な用地を確保できないからだ。