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東京オリンピック・パラリンピックという宴が終わり、五輪施設は後利用に焦点が移った。多くの施設で収益は赤字となることが濃厚で、レガシーへの道筋は視界不良だ。“ハコモノ”にしない工夫を改めて考える。

 東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムだった国立競技場が、当初の計画である五輪後の球技専用化を見送る公算が大きくなった。日経アーキテクチュアに対し、複数の関係者が明らかにした。整備時に混迷を極めた同施設。運用でも方針転換が濃厚で、再び混乱が起こりそうだ〔写真1〕。

〔写真1〕トラック存続が濃厚になった国立競技場
〔写真1〕トラック存続が濃厚になった国立競技場
五輪後には観客席8万席の球技専用競技場に改修予定だった国立競技場。トラック存続が濃厚となり、席数は現状の6万席のままになる可能性が大きい(写真:吉田 誠)
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[国立競技場]
収支黒字に「見通し甘い」の声

 2015年に日本スポーツ振興センター(JSC)は、ザハ・ハディド案による旧計画の収支見込みを黒字と試算。一方で、あるサッカー関係者は「支出が40億円を超えるのに黒字は見通しが甘すぎる」とあきれ顔だった。JSCは旧計画の見直し後、年間の収支見込みを公表していない。

整備費用:1569億円 年間収支:未定

 国立競技場の後利用を巡っては、2017年にスポーツ庁の検討ワーキングチームが大会後に陸上のトラックを撤去して球技専用とするかどうかを議論。焦点は、陸上競技の国際大会で必要なサブトラックが設置できる敷地を確保できるかどうかだった。検討チームは「困難である」と判断。球技専用にしてスタジアムの価値を高めることで合意していた。

 しかし20年に入ってその方針は揺らぎ始める。10月に萩生田光一文部科学相(当時)が「(トラックがある)現状のまま使うほうが国民の理解を得られるのではないか」と発言。方針を見直す可能性に言及した〔図1〕。

〔図1〕国立競技場の後利用に関する議論の流れ
〔図1〕国立競技場の後利用に関する議論の流れ
五輪前に専門家による検討チームで球技専用化を一度は決定したものの、2020年ごろからトラックを残す計画が浮上した(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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