本連載は、企業のデジタルマーケティングを支援してきたNexalが、データをビジネスに結びつけるために必要な環境づくりや有用なツール、その正しい使い方を解説する。第5回の今回は、顧客関係管理(CRM)システムのマーケティング活用について解説する。
製造業が、顧客との過去の取引を洗い出して、顧客ごとに新たな商材を提案したいと考えたとする。しかし、販売や保守をグループ会社に分業していると、データが点在していて、顧客との取引の全体像が見えないことがある。
顧客関係管理(CRM)システムは取引データを一元管理し、顧客満足度(CS)・顧客体験設計(CX)の向上や、顧客単位に最適化したマーケティング活動(ABM:アカウントベースドマーケティング)を展開するための仕組みである。しかし、実際に活用しようにも、データの不備により思うに任せない企業が少なくない。連載第5回は、CRMをデジタルマーケティングに活用するための要点を整理する。
マーケティング活用を前提にCRMにデータを持て
CRMという言葉は、企業によって使い方が微妙に異なる。製品やサービスを提供するベンダーによって考え方が異なるからだ。本稿では、CRMを顧客との取引情報を管理するシステムと定義し、顧客との接点履歴など取引が成立する前の情報を含めて蓄積する営業支援システム(SFA)とは区別して考える。
CRMはいまや多くの企業で使われるようになったが、マーケティングに活用できている企業はそう多くない。主として、分析の材料になるデータをCRMに蓄積できていないためだ。
そもそも多くの企業は、CRMを売上実績の管理という会計用途で導入してきた。マーケティングに応用する目的でCRMにデータをためる意識が、そもそも欠けていたといえる。
商材が多岐にわたり、営業も地域ごとに異なる組織が担当している企業では、ある顧客にどの部署がどの商材で取引したかといった内訳データがあれば、様々な分析が可能だ。しかし、そうしたデータをCRMに記録している企業は多くない。
マーケティングの観点でいえば、この顧客といつ契約したのか、購入台数や契約ライセンス数はどれほどか、いつ解約したのかといったプロダクトライフサイクルを通じた記録が必要になる。しかし実際には、取引が成立した日付や売上金額程度しか、CRMに記録がないことも珍しくない。
顧客の業種ごとの傾向を見極めたい場合も同様で、売上記録だけでは何も見通すことはできない。
チャネルでのデータ分断がCRMを無力化する
デジタルマーケティングが市民権を得て、様々な企業にマーケティング部門が設置された今も、CRMの活用が進まない。これは企業やグループ内の各社・各組織でデータが分断され、バラバラに保持されているためだ。
例えば、メーカーが販売子会社やパートナー(販売代理店など)を通じて製品を販売している場合はどうなるか。メーカーが直接販売した分は取引データとして本社のCRMに蓄積されるが、パートナー経由で販売した分は顧客の社名さえ分からないという状況が生じ得る。