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 「シモキタじゃないみたい」。東京都世田谷区にある小田急電鉄の下北沢駅南西口を出てすぐの場所に、緑に囲まれた遊歩道と野原が広がる。都市にある駅前広場とは思えない光景に、現地を訪れた人が驚いていた。

下北沢駅の商業施設の屋上から見た「緑地広場」(写真:安川 千秋)
下北沢駅の商業施設の屋上から見た「緑地広場」(写真:安川 千秋)
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 ここは小田急小田原線の連続立体交差と複々線化の事業に伴う鉄道地下化で生まれた線路跡地だ。対象は世田谷代田―下北沢―東北沢の3駅間の約1.7km区間。2022年5月に一部区間を残して街開きした。区が公共空間の通路や広場を、小田急電鉄が商業施設やホテル、住宅、広場などをそれぞれ整備した。

 「地下化によって創出された土地は区にとって貴重な存在。北沢周辺は住宅などが密集し道路が狭く、災害対策が課題だった。災害時は緊急車両の通行路として活用でき、日常使いもできる駅間通路を整備した」。区北沢総合支所拠点整備担当課の岸本隆課長は、こう説明する。

小田急電鉄の下北沢駅から南西方向を見下ろす。地下化事業で生まれた線路跡地に、緑を基軸として広場や通路、商業施設、住宅などを整備した(写真:安川 千秋)
小田急電鉄の下北沢駅から南西方向を見下ろす。地下化事業で生まれた線路跡地に、緑を基軸として広場や通路、商業施設、住宅などを整備した(写真:安川 千秋)
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世田谷代田駅から東北沢駅までをつなぐ約1.7km区間の線路跡地の整備平面図。2022年7月時点の情報を基に作成(出所:世田谷区)
世田谷代田駅から東北沢駅までをつなぐ約1.7km区間の線路跡地の整備平面図。2022年7月時点の情報を基に作成(出所:世田谷区)
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 緑地広場の基本設計を担当したランドスケープデザイン事務所のフォルク(東京・世田谷)の三島由樹代表は、次のように話す。「景観を楽しむような庭園ではなく、人々が直接、手に触れたり、植物と人の営みの循環が感じられたりするワイルドな緑の空間とした」

世田谷区と小田急電鉄が一体的に整備した緑地広場。フォルクの三島代表は、「開園前のワークショップで子どもたちに自由に駆け回ってもらい、自然にできたルートの草を刈って園路にした」と話す(写真:安川 千秋)
世田谷区と小田急電鉄が一体的に整備した緑地広場。フォルクの三島代表は、「開園前のワークショップで子どもたちに自由に駆け回ってもらい、自然にできたルートの草を刈って園路にした」と話す(写真:安川 千秋)
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緑地広場で開いたイベント。三島代表は、線路跡地の一部の植物を地元の人たちなどと管理・活用する一般社団法人「シモキタ園藝部」の共同代表理事も務める。園藝部は緑地広場などを拠点に活動し、植物のことを学んだり、活用したりするイベントを開催している(写真:植田 絵里菜)
緑地広場で開いたイベント。三島代表は、線路跡地の一部の植物を地元の人たちなどと管理・活用する一般社団法人「シモキタ園藝部」の共同代表理事も務める。園藝部は緑地広場などを拠点に活動し、植物のことを学んだり、活用したりするイベントを開催している(写真:植田 絵里菜)
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 緑地広場から世田谷代田駅側に歩くと、すり鉢状の地形を生かした「シモキタ雨庭広場」が見えてくる。

 「敷地の高低差は約3m。最も低いくぼ地状の植栽地に、周囲に降った雨水を集めて地下に貯留、浸透させる雨庭を設けた」(区みどり33推進担当部公園緑地課の向吉真央氏)

南西側から見たシモキタ雨庭広場の全景。雨庭広場と緑地広場は、「世田谷区立身近な広場条例」で位置付けられる広場(写真:世田谷区)
南西側から見たシモキタ雨庭広場の全景。雨庭広場と緑地広場は、「世田谷区立身近な広場条例」で位置付けられる広場(写真:世田谷区)
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 雨庭広場には地域の要望を反映し、子どもが遊べるゴムチップの遊具を設置。住民の人気スポットとなっている。幼児と芝生でくつろぐ30代夫婦は、「近くに大きな公園がないので芝で寝転がれるのはありがたい。線路の地下化で踏切がなくなり、街がつながった」と話す。

2022年7月にオープンしたシモキタ雨庭広場。雨水がたまっても飛び石の上を渡れる(写真:安川 千秋)
2022年7月にオープンしたシモキタ雨庭広場。雨水がたまっても飛び石の上を渡れる(写真:安川 千秋)
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線路が撤去された後。現在はシモキタ雨庭広場がある区間(写真:小田急電鉄)
線路が撤去された後。現在はシモキタ雨庭広場がある区間(写真:小田急電鉄)
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