2022年1月、パナソニックは新たな環境の長期ビジョンである「Panasonic GREEN IMPACT」を発表した。2030年までに全事業会社でのCO2排出量を実質ゼロにし、2050年には現時点での世界の約1%にあたる3億トン以上のCO2排出量削減を目標とする。2022年4月に開催した環境セミナーの模様から、文字通りインパクトを与えるコンセプトの内容、その先に目指すカーボンニュートラル像を紹介する。

社会の公器だからこそ企業に求められる責任がある

地球温暖化防止対策として、温室効果ガスの実質排出ゼロを目指すカーボンニュートラル政策が世界各国で進む。2020年10月には日本政府が2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言。2030年の目標として、マイナス46%(2013年度比)の温室効果ガス削減を掲げている。

中でも、温室効果ガスで最も大きな割合を占める二酸化炭素(CO2)削減は、地球規模での喫緊の課題である。これら環境問題に対し、パナソニックは以前から意識的な活動を続けてきた。その根底には、創業者である松下幸之助氏の「企業は社会の公器」との思いがある。産業の発展が自然を破壊し、人の幸せを損なうことは本末転倒だ――この松下イズムはパナソニックグループの文化として根づいている。事実、2010年には「環境革新企業」を宣言、2017年に「パナソニック環境ビジョン2050」を策定するなど、積極的に環境課題解決に向けた自社ビジョンを発信してきた。

そして2022年1月、米国で開催された国際的IT・家電見本市「CES 2022」のプレスカンファレンスにおいて、「Panasonic GREEN IMPACT」(以下、PGI)と名づけた新たな環境コンセプトを発表。2030年までに全事業会社のCO2排出量を実質ゼロにすることを表明した。さらに2050年を見据え、顧客が利用する商品からのCO2排出量削減、加えて法人、公共機関向けなどへの省エネソリューション、クリーンエネルギーの利活用拡大などを通じて社会全体のCO2を減らす取り組みを進める。

全世界CO2総排出量の約1%削減がもたらすインパクト

2022年4月19日には、パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社による環境セミナー「カーボンニュートラル最前線~進化するくらし・街・モビリティ~」がリアル会場とオンラインのハイブリッドで開催された。最初にオペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部 環境経営推進部の野上若菜氏が登壇し、PGIの狙いと概要について説明した。

パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部 環境経営推進部 野上若菜氏(撮影:丸毛透、以下同)
パナソニック オペレーショナルエクセレンス 品質・環境本部 環境経営推進部 野上若菜氏(撮影:丸毛透、以下同)

「PGIは段階的に拡大していく長期ビジョン。まずは2030年、自拠点のCO2排出削減ゼロが目標です。これを中核とし、自社バリューチェーン(VC)全体、そして既存事業における社会への排出削減貢献、新技術・新事業による社会への排出削減貢献、社会のエネルギー変革に対する波及インパクトと外周を広げていき、2050年におよそ3億トンの削減インパクトを目指します。これは現時点での全世界CO2総排出量の約1%にあたるものです」(野上氏)

2030年まであと8年と迫る中、パナソニックは着々と動き始めていると野上氏は話す。

「すでに日本、中国、コスタリカ、ブラジルとグローバルの自拠点でCO2ゼロ工場を推進しています。自拠点の排出量は自社VCの中のたった2%に過ぎませんが、自らの責任と行動で変えていくための意義ある2%と考えています。これらのモデル工場で得たノウハウを蓄積し、2030年までにグローバルの全工場へと拡大していく予定です」(野上氏)

並行して省エネ商品や省エネソリューションの提供により、既存事業での徹底したエネルギー削減を推進する。例えば独自の照明設計を採用して、快適さを損なわずに照明の消費電力を最大30%削減。空調・換気商品では機器の進化や連携によって、2030年には約40%のエネルギー削減(2020年比)が可能になる見込みだ。

社会のエネルギー変革については、電化による再生可能エネルギー(再エネ)活用について説明した。「我々の商品で天候や日照に左右される不安定な再エネの利用タイミングをシフトして、需要側で再エネを賢く使いこなす支援をしていきたい」と野上氏。さらにモビリティの車載電池性能向上にも注力し、リユース、リサイクルも含めたトータルでの環境負荷低減に取り組む。

一方、パーム油の原料として栽培されるアブラヤシの廃材を使った再生木質ボードを開発し、廃材から発生するメタンガスの排出削減に寄与。同時にアブラヤシ農園の資源循環を促し、パーム油産業の持続的発展に貢献する活動も始めた。

「これらの事例一つひとつを磨き上げるとともに、有機的につながって拡大していくことが、PGIが最外周で描く無限の可能性の部分。理想の実現に向け、これからもグループ一丸となって取り組んでいきます」(野上氏)

続いて登壇したビジネスソリューション本部 本部長 宮原智彦氏は、「サスティナブル・スマートタウン」(以下、SST)でのカーボンニュートラルの取り組みについて語った。SSTはパナソニックが手がけるまちづくりのプロジェクトで、神奈川県藤沢市(2014年)、神奈川県横浜市綱島(2018年)、大阪府吹田市(2022年)の3カ所に存在する。

パナソニック オペレーショナルエクセレンス ビジネスソリューション本部 本部長 宮原智彦氏
パナソニック オペレーショナルエクセレンス ビジネスソリューション本部 本部長 宮原智彦氏

パナソニックがまちづくり構想の検討を開始したのは、環境革新企業を宣言した2010年のこと。今後は家庭内の省エネをまち単位に広げ、地域のエネルギーマネジメントによるエネルギー地産地消のスマートタウンが必要と考えたのがきっかけだ。

「当時は省エネやエコは我慢を強いられるイメージが強いものでした。しかしSSTは“くらし起点”の発想で、生活する人びとの視点で社会や地域の課題解決を図るアプローチを採用しました。住民の皆さんと一緒にまちづくりをしていかないと永続的なまちにはなりません。サステナブルを冠しているのはそのためです」(宮原氏)

すべてのSSTで、エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティと5つの分野横断型サービスを設けている。パナソニックのみならず、住民、自治体、大学、パートナー企業などが一体となってまちづくりを推進するのも特徴だ。その上で、宮原氏は藤沢SSTと吹田SSTの取り組みを紹介した。

藤沢SSTは「生きるエネルギーがうまれる街。」をタウンコンセプトとし、自立共生型のエネルギーマネジメントタウンと位置づけている。具体的には600戸のスマートハウスに太陽光発電、蓄電池、エネファーム、HEMS(Home Energy Management System)を標準装備。全体目標としてCO2排出量70%削減(1990年比)、再エネ利用率30%以上、災害時などの際の3日間のライフライン確保を掲げる。

「まち全体で、3メガワット級と世界最大規模の個別分散型エネルギーマネジメントシステムを確立しました。戸建てのスマートハウスではすでにCO2排出ゼロを達成し、タウン内の自動車のEV活用を促すことでCO2削減に努めています。テクノロジーや機器だけではなく、最終的には住民の皆さんの行動変容によってCO2排出量70%削減を達成できました」(宮原氏)

2022年4月にオープンしたばかりの吹田SSTでは、「カーボンニュートラルが当たり前の社会」を提案する。特筆すべきが、日本初となる「再エネ100タウン」の取り組みだ。再エネ電源、卒FIT電源、非化石証書を付加した非再エネ電源をパートナー企業の関西電力がエリア一括受電。タウン内で消費する電力を再エネ100%で賄う。高い防災性にも配慮し、太陽光発電、蓄電池、先進ガス機器を活用したエネルギーのレジリエンス(回復力)対策にも力を入れた。

「再エネ100タウン」に代表される、カーボンニュートラル社会に向けたパナソニックの様々な取組み(資料提供:パナソニック)
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「再エネ100タウン」に代表される、カーボンニュートラル社会に向けたパナソニックの様々な取組み(資料提供:パナソニック)

宮原氏は「いずれの場合も、我々だけのノウハウでは不可能。パートナー企業の共創があってこそ実現できました」と共創の重要性を強調。継続して持続可能なまちづくりを発展させていきたいと結んだ。