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 東日本大震災からの復興の象徴として知られる、宮城県女川町の温泉施設「女川温泉ゆぽっぽ」。2021年の2月と5月に発生した地震で窓ガラスの破損が相次ぎ、原因究明などのために長期休館を余儀なくされていたが、22年8月21日、約1年3カ月ぶりに営業を再開した。町の調査で、鋼管柱と天井材の衝突が原因だと判明。再発防止に向けて改修を進めていた。

2021年5月の地震による被害状況。北東側上部の窓ガラスが破損し、地面に散乱している(写真:女川町の写真に日経クロステックが加筆)
2021年5月の地震による被害状況。北東側上部の窓ガラスが破損し、地面に散乱している(写真:女川町の写真に日経クロステックが加筆)
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 女川温泉ゆぽっぽは、東日本大震災で被災した旧施設をJR女川駅に併設するかたちで15年に開業した。構造種別は鉄骨造・一部木造で、建物は地上3階建て。南北に細い平面形状をしており、延べ面積は約900m2だ。

 女川町で震度4を観測した21年2月13日の地震と、震度5弱を観測した同年5月1日の地震ではいずれも、建物の北東側と南西側の窓ガラスが破損した。同じ箇所で被害が発生したことを重くみた女川町が営業を停止。第三者に原因の分析を依頼し、これを踏まえて改修工事を実施した経緯がある。なお、この施設では震度5強を観測した22年3月16日の地震でも、北西側で窓ガラスが1枚破損する被害が出ている。

女川温泉ゆぽっぽの2階平面図。赤い囲みが、2021年2月と同年5月の地震で被害を受けた箇所。青い囲みが、22年3月の地震による被害を示す。いずれも上部の窓ガラスが破損した(出所:取材を基に日経クロステックが作成)
女川温泉ゆぽっぽの2階平面図。赤い囲みが、2021年2月と同年5月の地震で被害を受けた箇所。青い囲みが、22年3月の地震による被害を示す。いずれも上部の窓ガラスが破損した(出所:取材を基に日経クロステックが作成)
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 町は構造設計事務所のアースフィールド(東京・豊島)に原因の分析を依頼。結果を踏まえて改修を進めることにした。分析に協力した東北大学の源栄正人名誉教授が、屋根構造体の時刻歴応答解析を実施したところ、地震時に屋根が大きく上下に揺れ、天井材がガラスを支える鋼管柱の柱頭に衝突したことが分かった。衝突の衝撃でガラスが割れたとみられる。横揺れによる屋根の上下変位は、水平変位の2倍以上になるという。確保していた6cm程度の離隔では足りなかった。

 源栄名誉教授は、中小地震で大きな上下変位が発生した理由として、屋根に大きなねじれ振動が生じたと推定する。「現地は谷地形で、ねじれ振動を起こしやすい。偏心を有する特殊な屋根形状もねじれの要因だ。共振で大きな上下動が屋根に生じたとすれば、被害状況に説明がつく。特殊な形状をした屋根の動的特性を十分に考慮した設計がなされていなかった」(源栄名誉教授)