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2021年11月2日午前5時50分ごろに東京・吉祥寺で起こった道路の陥没事故。道路を管理する武蔵野市が取りまとめた調査書からは、建て替えなどで既存ビルの地下外壁を山留めとして利用する際の課題が浮かび上がる。

 建設現場の山留めに利用した既存地下外壁が傾倒し、道路下の土砂が流出して陥没に至った──。

 JR吉祥寺駅に程近い道路で、長さ約15m、幅約3m、深さ約2~5mに達する陥没が発生し、走行中のごみ収集車の後部が転落した事故から約11カ月〔写真12〕。東京都武蔵野市は2022年9月29日に公表した調査書で、道路の西側に隣接するビル建設現場の山留めが不十分だったため、陥没が生じたと結論付けた。

〔写真1〕ごみ収集車の後部が転落
陥没が発生したのは東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目。東急百貨店吉祥寺店の北側の道路だ。運転手を含めて負傷者はいなかった。市は2021年11月7日~8日に車両を撤去。応急復旧を済ませて13日に交通を開放した(写真:日経アーキテクチュア)
陥没が発生したのは東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目。東急百貨店吉祥寺店の北側の道路だ。運転手を含めて負傷者はいなかった。市は2021年11月7日~8日に車両を撤去。応急復旧を済ませて13日に交通を開放した(写真:日経アーキテクチュア)
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(写真:武蔵野市)
(写真:武蔵野市)
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〔写真2〕現場はJR吉祥寺駅から徒歩数分
〔写真2〕現場はJR吉祥寺駅から徒歩数分
事故現場はJR吉祥寺駅から徒歩数分の場所にあり、周辺には飲食店などが軒を連ねる(写真:国土地理院の写真に日経アーキテクチュアが加筆)
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 調査書によると、現場にはもともと地下2階・地上4階建ての建築物が立っていた。南側は1982年に建設され、95年に北側を増築している。南側の基礎形式は直接基礎、北側は杭基礎だ〔図1〕。

〔図1〕既存地下外壁を山留めとして利用していた
〔図1〕既存地下外壁を山留めとして利用していた
この建設現場では、既存の建物の地下外壁(右上の図で強調した箇所)のみ残し、山留めとして使用していた。地下外壁の高さは南側が10.5m、北側が8.35mだ(資料:武蔵野市の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 施工者の丸二(東京都武蔵野市)はビルの新築に向けて、既存建物の地上部分と地下躯体(柱や梁)、基礎底盤、杭を解体。唯一、既存地下外壁を温存し、山留めとして利用していた。市が調査書のなかで問題視したのは、高さ10.5mもの既存地下外壁に作用する土圧を抑えるための仮設が、不十分だったとみられる点だ。