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 国土交通省九州地方整備局は熊本県の川辺川に整備する流水型ダムについて、適切な対策を講じないとアユなどの生息環境に悪影響を及ぼす恐れがあるとの評価結果を明らかにした。従来の貯留型ダムと比べて環境への影響が小さいといわれる流水型でも、環境保全対策が欠かせないことが分かった。九州地整が2022年10月6日に公表した。

瀬や淵、砂れきの河原など多様性に富む川辺川の風景。流域にダムはない(写真:川辺川を守りたい女性たちの会)
瀬や淵、砂れきの河原など多様性に富む川辺川の風景。流域にダムはない(写真:川辺川を守りたい女性たちの会)
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評価の対象箇所。流水型ダムは、平常時には水の流れを連続的に維持して、一定規模の洪水時にはダムサイト上流側の洪水調節地内に一時的に貯水する(出所:国土交通省川辺川ダム砂防事務所)
評価の対象箇所。流水型ダムは、平常時には水の流れを連続的に維持して、一定規模の洪水時にはダムサイト上流側の洪水調節地内に一時的に貯水する(出所:国土交通省川辺川ダム砂防事務所)
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 流水型ダムでは大雨のときだけ水をためて洪水調節を実施する。一時的な貯水で洪水調節地に流入した土砂内の石れきや粒径の大きな砂は、平常時に戻っても一部が調節地内に残る。それに伴い、ダム下流部でアユの餌場環境に欠かせない石れきが減る恐れがある。アユは、石に付着した藻類を食べて成長する。

ダム整備の影響を受けた土砂の移動イメージ。流量が元に戻っても調節地内に一部の石れきが残る。下の写真は、河床面を構成する材料(出所:国土交通省川辺川ダム砂防事務所)
ダム整備の影響を受けた土砂の移動イメージ。流量が元に戻っても調節地内に一部の石れきが残る。下の写真は、河床面を構成する材料(出所:国土交通省川辺川ダム砂防事務所)
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 中長期的には、河床構造が平たんになって、瀬や淵が消滅する可能性がある。洪水時の貯水によって、ダム下流で洪水流による河床の土砂の移動頻度が低下。河原の樹林化が進んで、低水路が一定の位置に固定される恐れがあるからだ。

 「アユは河川下流域の瀬で産卵するので、ダムが産卵場所の確保に影響を与える可能性がある」。全国各地でアユの生態調査や環境保全工事の指導をするなど、アユの生態に詳しいたかはし河川生物調査事務所(高知県香南市)の高橋勇夫代表は、こう指摘する。

 さらに、河床構造の平たん化は、瀬の石を基準として縄張りをつくるアユの減少を招く。球磨川漁業協同組合(熊本県八代市)では、縄張りを利用したアユの友釣りを楽しむ客が支払う利用料相当の「遊漁券」で収入を得ている。ダム計画に伴う国と同組合との漁業補償交渉に影響する可能性がある。

川辺川で捕れたアユ。通常の個体よりも大きく、「沢アユ」と呼ばれる(写真:川辺川を守りたい女性たちの会)
川辺川で捕れたアユ。通常の個体よりも大きく、「沢アユ」と呼ばれる(写真:川辺川を守りたい女性たちの会)
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