ため池や閉鎖海域などを利用した水上太陽光発電が注目されている。自治体の脱炭素化意識の高まりを、政府が資金面・安全面で支援する。

 三井住友建設は、大阪府泉佐野市の農業用ため池に水上太陽光発電所を新設しオフサイトコーポレートPPA(電力購入契約)事業を開始する。発電出力は約2.8MW。電力は地域新電力(PPS)の泉佐野電力に25年にわたって売電する。

三井住友建設が大阪府泉佐野市の3つの農業用ため池に新設する水上太陽光発電所のイメージ。発電出力は約2.8MW。2023年6月に稼働を開始する予定<br><span class="fontSizeS">(写真:三井住友建設)</span>
三井住友建設が大阪府泉佐野市の3つの農業用ため池に新設する水上太陽光発電所のイメージ。発電出力は約2.8MW。2023年6月に稼働を開始する予定
(写真:三井住友建設)
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 水上太陽光の開発地はため池や湖沼などが多く、主な所有者は自治体や水利組合だ。「かつては自治体によって太陽光発電の設置意欲に大きな温度差があった。全国の自治体が競うようにカーボンニュートラルを宣言するようになると、再エネ開発の意欲も急速に高まってきた」と、三井住友建設再生可能エネルギー推進部の武冨幸郎部長は話す。

 泉佐野市がオフサイトPPAによる電力調達に乗り出したのは、同市が3分の2を出資する泉佐野電力の苦しい台所事情がある。ウクライナ危機などの影響で卸売電力価格が高止まりし、収益悪化に苦しむPPSは少なくない。泉佐野電力も市場からの調達比率を減らし、長期安定的に再エネを調達する方策として、市のため池を活用したオフサイトPPAを計画した。公募の結果、設備設計から施工までを手掛けるゼネコンの三井住友建設が採択された。

「台風で破損・炎上」を防ぐ

 国内の太陽光発電の累積導入量は2021年度に70GWを超え、陸地での開発適地が減少している。注目されるのが、全国に約20万カ所あるため池や調整池、閉鎖海域などを活用した水上太陽光発電だ。導入ポテンシャルは38GWとの試算もあるが、現在の導入量は約200MWで太陽光発電全体の0.3%にすぎない。

 政府も普及に向けて動き出した。資金面では、環境省が農地やため池に設置する太陽光発電設備を「新たな手法による再エネ導入」として補助金事業を開始した。

 さらに大きいのが安全面の支援だ。陸上に比べて水上の太陽光発電は強風に弱いという欠点がある。19年には台風15号の強風で千葉県の山倉ダムに設置された水上太陽光パネルが破損・炎上する事故が発生。自治体にとって安全面は大きな懸念材料になっている。そこで経済産業省は21年、水上設置型など特殊な太陽光発電システムについて設計・施工のガイドラインを作成した。

 東京都が開発適地として注目するのは閉鎖海域だ。東京五輪の会場だった海の森水上競技場エリアで「浮体式太陽光発電実証事業」を実施、三井住友建設も参画する。パネルを載せた浮体や係留の仕方を比較検証し、早期の社会実装を目指す。

 「最近は自治体だけでなく、用水池を持つ工場や、再エネ比率を高めたい電力小売りからも引き合いが来る」と武冨部長はPPA事業拡大に意欲を見せる。水上太陽光の世界大手、仏シエル・テールがリース会社の東京センチュリーと協業するなど、今後市場は活発化しそうだ。