MS&ADインシュアランスグループホールディングスでCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)を歴任した船曵真一郎氏。2021年4月に傘下の三井住友海上火災保険の社長に就任した。2021年度はMS&ADグループの中期経営計画の最終年度に当たる。CIO出身・船曵氏が経営者として描く、同社のIT・デジタル戦略を聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長、田中 陽菜=日経クロステック/日経コンピュータ)

船曵 真一郎(ふなびき・しんいちろう)氏
船曵 真一郎(ふなびき・しんいちろう)氏
1960年生まれ。1983年住友海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)入社。三井住友海上火災保険の営業企画部長や経営企画部長を経て、2017年MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員兼グループCIO兼グループCISO。2018年グループCDOを兼務。2021年4月に三井住友海上火災保険の社長に就任、一般社団法人日本損害保険協会の副会長。(写真:村田 和聡、以下同)
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MS&ADのグループCIOを経験した後に、三井住友海上の社長に就任しました。この人事はグループにとってどのような意味がありますか。

 CIOを経験した私が社長になった意味をあえて挙げるとすると、「システム的な実現可能性を考慮した経営戦略を策定できる」ことだと思います。

 これまでの日本企業は、まず経営戦略を策定してから、それを実現するためのシステムを考えるという発想でした。例えば生産性を向上したいという目的があり、その手段としてシステムをつくっていました。

 ですが、こうした手法はややもすると、現場に大きな負担をかけることにつながります。例えば企業の合併に伴うシステム統合です。当初計画よりも予算や時間が膨れ上がってしまい、結果としてそのひずみがシステム障害などの形で出てきてしまう。

 企業を運営している限り、システムの刷新や入れ替えは半永久的に続きます。システムは予算さえかければできるものではありません。人的リソースや開発期間、障害が起きたときのリスクも考慮し、計画の段階でシステム的にも余裕を持った設計をする必要があると考えています。

これから三井住友海上の社長として、どのようなデジタル施策に注力しますか。

 当社のDX(デジタルトランスフォーメーション)の根幹となるのは新たな基幹システムです。一例を挙げると、通称「BRIDGE」(ブリッジ)と呼んでいるグループ共通の保険金支払いシステムが、2021年7月から順次稼働します。まず三井住友海上の自動車保険に導入し、次に火災保険などそれ以外の種目についても稼働させます。その後、あいおいニッセイ同和損害保険を含めて段階的に導入を進めます。

 三井住友海上やあいおいニッセイのいずれかの既存システムに片寄せする選択肢は取らず、新たにシステムを構築しました。システム設計で重視したのは、保険金支払いに関わる大小様々なデータを基盤に蓄積したり分析したりできるようにした点です。

 これまで、システムに入力していたデータは、保険金支払いや金額の計算に必要な一部の要素にとどまっていました。どのような事故が起きたのか、その事故が起きた原因は何だったのか。倉庫の中には紙に書かれた情報がデジタル化されないまま大量に眠っており、分析可能な「データ」になっていませんでした。

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