野村総合研究所は2021年6月8日、住宅市場の長期予測を発表した。20年に同様の予測を発表した際、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、20年度の住宅着工は72.8万戸に減少すると予測していた。しかし実績値は81.2万戸で、予測よりも8万戸以上多かった。原因の一つとして「コロナ禍が住宅着工戸数を押し上げる働きをした」と分析。40年度までの住宅着工戸数も“上方修正”した。
野村総研は着工戸数が予測を上回った理由として、大きく2点を挙げる。
1つは、経済の悪化が予測よりも抑えられたことだ。予測値の算定には、移動世帯数や住宅ストックの築年数、名目GDP(国内総生産)成長率などを用いている。その1つである名目GDP成長率は20年の段階ではマイナス5.1%と推定していたが、実際はマイナス4.0%にとどまった。これで説明できる乖離(かいり)は、5万戸程度とみている。「残りの3.4万戸はモデル上、説明できないズレ」。同社コンサルタント事業本部の大道亮・上級コンサルタントは、こう解説する。
3.4万戸のズレはなぜ生じたのか。大道氏は「あくまでも可能性」と前置きしたうえで、消費者ニーズの変化を挙げる。「コロナ禍で家で過ごす時間が増えたことや、在宅勤務や家庭学習など自宅でする活動の種類が増えた結果、消費者が求める住宅と既存の住宅ストックの間に若干のズレが生じた。それが新設住宅着工戸数を押し上げる方向に作用した」(大道氏)
四半期ごとに見ると、20年の予測時点では第3四半期と第4四半期に大きく落ち込むとしていた。だが実績は、第1四半期と第2四半期が前の期を上回った。第3四半期は、第1四半期と同程度の水準だ。さらに第4四半期は数字こそ低いものの、コロナ禍の影響を加味しない時点(20年2月)の予測値並みに収まっている。
野村総研では20年度の結果を踏まえて、21年度以降の予測を見直した。21年度の着工戸数は、20年時点ではコロナ禍の影響で74万戸、影響がなかったとして82万戸と予測していた。これに対して、今回の予測では86万戸とした。20年時点の予測との差は、コロナ禍の影響を加味した場合で12万戸、影響がなかった場合でも4万戸の上乗せになる。上方修正の理由は「直近の経済予測や20年度の実績を加味したものだ」という。
野村総研は40年度までの長期的な予測も上方修正している。20年の予測では41万戸としたが、21年の予測では46万戸と5万戸の上方修正である。野村総研は長期的には「新設住宅着工戸数が減少する傾向は変わらない」とみる。ただし、コロナ禍で生じた消費者の新しいニーズで着工戸数が押し上げられるとみる。