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 建設資材の高騰に歯止めがかからない。請負代金の増額に応じてもらえず、建設会社の多くが頭を悩ませる。特に民間の建築工事では、発注者に協議の席に着いてもらうことすら難しいのが実情だ。大手ゼネコンなどで構成する日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長は、自ら「嫌われ役」を買って出てでも、受発注者間の新たな関係づくりに取り組む構えだ。(聞き手は星野 拓美、木村 駿=日経クロステック/日経アーキテクチュア)

インタビューに応じる日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長。1947年生まれ。71年に東京大学工学部建築学科を卒業し、清水建設に入社。北陸支店長、九州支店長、代表取締役社長などを経て、2016年から代表取締役会長。21年から日建連の会長を務める(写真:山田 愼二)
インタビューに応じる日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長。1947年生まれ。71年に東京大学工学部建築学科を卒業し、清水建設に入社。北陸支店長、九州支店長、代表取締役社長などを経て、2016年から代表取締役会長。21年から日建連の会長を務める(写真:山田 愼二)
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長期化する建設資材の高騰に円安が追い打ちをかけています。50年以上、建設業界に携わってこられた経験から、昨今の物価上昇をどのようにご覧になっていますか。

 1970年代のオイルショックのときよりも、上がり方は激しいように感じます。それに、オイルショックは一気にやって来た印象ですが、今回の資材高騰は長期間かけてじわじわ上がってきている点が異なります。1年前から1年半前に比べると、価格が1.5倍は当たり前。なかには2倍近くになっている資材もある。その結果、建築・土木工事のコストは(この19カ月で)平均11~14%も上昇しているのです。

 建設工事の請負では、発注者と契約してから資材を調達し、工事に取りかかるまでにタイムラグがあります。契約後に、現在のような資材の高騰に見舞われると、工事費が余分にかかってしまいますよね。これは、いわば事前に予見できないリスクです。そのリスクを受注者と発注者のどちらが、どのように負担するか。今まさにこのことが、我々にとって重要なテーマになっています。

価格転嫁を受け入れる民間発注者は少ないと聞きます。

 公共工事では標準請負契約約款に「スライド条項」を盛り込んでいますから、急激な物価上昇時には受発注者が協議し、上昇分の負担割合を決めることになります。ところが民間工事は公共工事のようにはいきません。

 中央建設業審議会が作成した民間建設工事標準請負契約約款にも、物価や賃金が変動した場合に、受注者は発注者に対して請負代金の変更を求めることができると書いてありますが、なかなか応じてもらえない。なんとか協議の席に着いてもらえたとしても、「無い袖は振れない」と言われるのが実情です。それどころか、そういうことを認めないと書いてあるような契約約款を使用している企業もあると聞いています。

 こうした状況に、元請けの建設会社だけでなく、我々の下請けである専門工事会社なども頭を悩ませています。我々は下請け会社から、「物価の上昇分について、負担してください」と言われている。なんとかしてあげたいですが、発注者にも負担してもらわないと、我々が全て被らなければならなくなる。それはさすがに理不尽でしょう。

日建連では発注者向けに資材価格の推移などを記したパンフレットを作成し、適切な価格・工期での契約締結や、資材高騰に関する個別協議に応じるよう「お願い」していますね。

 ええ。発注者と交渉したくても、個社ではなかなか言いづらいこともあるでしょうから、日建連として交渉の裏付けとなるような資料を作成しました。日建連がこのようなパンフレットを作成するのは、今回が初めてだと思います。資材価格などの情報を毎月更新し、民間発注者に価格転嫁を要請し続けています。

 ただ、こうした業界団体としての活動が、「安い仕事はみんなで取らないようにしよう」と促しているように受け取られては困る。後になって「話し合いをした」(編集部注:談合をした)などと言われたら大変ですので、情報発信をするに当たっては、公正取引委員会に事前に相談し、慎重に準備を進めました。

日建連が作成した「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い」(出所:日本建設業連合会)
日建連が作成した「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い」(出所:日本建設業連合会)
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