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【第2回】
アナフィラキシーにアドレナリン皮下注ではなぜダメなの?

2010/03/24
田巻弘道、岸本暢将、岡田正人(聖路加国際病院アレルギー膠原病科〔成人、小児〕)

研修医 先生、最近お見かけしませんでしたね。

指導医 ニューオリンズで開かれたAmerican Academy of Allergy, Asthma, and Immunology(AAAAI、クアトロエイアイ)の学会に参加してきたんです。ニューオリンズには食事も含めて独自の文化があり、いろいろと楽しめました。ニューオーリンズセインツという地元のアメリカンフットボールのチームが、今年のスーパーボウルで優勝したので、セインツのグッズがたくさん売られていました。とはいえ、学会のセッションにほぼ出っぱなしだったので、あまり観光はできませんでしたが・・・。AAAAIでは、アレルギーの様々な新しい情報を得て今までの知識を整理することができて、とても有意義な時間を過ごせました。

研修医 アレルギーといえば、この間、救急外来でアナフィラキシーの方を診察したんです。救急外来がすごく混んでいて、その患者さんはタクシーで来たためにしばらく外で待たされていて、アドレナリンエピネフリン)の投与が遅れたのでどうしようかと思いました。

指導医 それは大変でしたね。アドレナリンは早く投与すればするほど、その後の予後が良いといわれていますからね。ある研究では、アナフィラキシーになってから心臓が止まってしまうまでの平均時間は、薬剤投与などの医原性の場合は5分、ハチなどの毒の場合は15分、食べ物の場合は30分という報告もあります。アドレナリンをより早く投与した方が2相性の反応が起こる確率も減るという報告もありますからね。

研修医 2相性の反応ってなんですか?

指導医 アナフィラキシーの症状が治療で落ちついた後に、時間をあけて再度アナフィラキシーの症状が出てくることがあるんです。たいていは最初の反応から8時間以内に起きてきますが、最大72時間という報告もあります。最初の症状が落ち着いただけで安心せずに、その後もしっかりと患者さんの様子を見ることが大切ということです。ところで、なぜ筋肉注射でアドレナリンを投与するか知っていますか?

研修医 簡単にすぐに投与できるからです。

指導医 そうですね。すぐに投与することの重要性は、アナフィラキシーから心停止までの時間の短さからも明白です。では、皮下注射ではダメな理由は分かりますか?

研修医 うーん。

指導医 アドレナリンの血中濃度が最高値に達するのは、皮下注射だと34分後、筋肉注射だと8分後といわれています。骨格筋は血流も豊富ですし、生理学的にもアドレナリンによって皮下の血管は収縮しますが、逆に骨格筋の血管は拡張し吸収が早くなります。先ほどのアナフィラキシーから心臓が止まるまでの時間ということからみても、筋肉注射の方が早く血中濃度の上昇が得られるのでより適しているわけです。

研修医 なるほど。

指導医 AAAAIの学会では、今度World Allergy Organizationから出る予定になっているガイドラインについても少し触れられていましたが、AAAAIからも2005年にガイドラインが出ています。アナフィラキシーの初期薬物治療は、先生がご存じの通り、アドレナリンです。ガイドラインなので「そのエビデンスは?」ということになりますが、疾患の性質上、倫理的にRandomized Control Trialを行うことは難しいですよね。そういった意味での厳密なエビデンスはありませんが、誰もが認める第1選択薬です(表1) 。

著者プロフィール

本連載は、聖路加国際病院アレルギー膠原病科の岸本暢将(きしもと みつまさ)氏、田巻弘道(たまき ひろみち)氏、岡田正人(おかだ まさと)氏らが中心となり執筆します。

連載の紹介

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リウマチ膠原病・アレルギー領域は、新しい治療法の開発が盛んで、診断基準も見直されるなど、目まぐるしく変化しています。この領域の診断法、治療法を、最新の話題を交えながら分かりやすくお伝えします。

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