最後は人工肛門に…大きすぎる代償
最後に取り上げたのは、日本の症例報告です。タイトルは、「直腸内で破砕せざるを得なかった巨大直腸異物の1例」。64歳男性が、自宅にあった7×7×8.5cmの異物を肛門に挿入したが、自力で摘出できず、腹痛が増悪したために救急外来を受診したというものでした。3D-CT画像では、骨盤底にしっかりとはまった異物が確認されます。この異物の正体は「湯呑み」。直腸異物としてはかなり大きいため、試行錯誤した結果がつづられています。
まず、外来での摘出は困難だったため、腰椎麻酔で肛門括約筋を弛緩させ、経肛門的に摘出を試みます。が、やはり摘出困難できず、開腹手術に移行となりました。腹腔内から圧迫して、経肛門的摘出を試みますが、異物は「小骨盤腔で仙骨のカーブに沿って嵌頓し、微動だにしなかった」とのこと。そのため、肛門側から圧排し、腹腔内に移動させた後に腸管を切開して異物を摘出することとしました。
石井氏は、「直腸は、骨盤腔内にありスペースがなく、周りに重要臓器もあるため手術が難しい。そのため、腹腔内まで押し戻して腸を切開したのだろう」とみます。しかしここまでしても、異物を破砕せずに摘出することは困難という判断に至ります。結局、直腸に戻してから異物を破砕し、経肛門的に摘出しました。男性は、圧迫による挫滅と、破片による直腸損傷のため、人工肛門を造設して手術を終了。実に、4時間51分の大規模な手術となってしまったとのことでした。
石井氏は、「つっこみどころが多すぎる症例だが、問診で異物挿入の理由を隠さず、『自慰行為中に』と答えているところは評価したい。直腸異物症例の99%は、『尻餅をついたら、たまたまそこにあったものが入った』と言うもの」とまず指摘。さらに、「外科医としては、夜中に救急外来を受診した人が5時間近い大手術になるのはとても大変だ」と続けた。外科医でもある裴氏は、「最後の『やむを得ず破砕した』という言葉からは、プロにとってつらい判断だったのだろうということが察せられ、心に染みる」と感想を述べます。石井氏も「今回のように、結局腸を傷つけざるを得なくなったのは、外科医としてつらい判断だっただろう。直腸異物によって人工肛門になるのは避けてほしい」と語りました。
最後に石井氏は、「僕が見た直腸異物症例で最も大きかったのは水晶玉。1週間くらい我慢して、お腹がパンパンに膨らんでから受診していた。これは腸閉塞状態なので、とても危ない。肛門括約筋が許容できる直径としては、外科に代々伝わる『オ○ナミンCの瓶ならなんとかなるけど、デ○ビタCの瓶は難しい』を覚えておいていただきたい」とまとめました。
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