前回まで、自宅でテレワークをする際、生産性向上につながるような環境整備に関する工夫を紹介した。環境を整備した上で取り組みたいのが、社員同士で適切にコミュニケーションを取ることによる生産性向上策だ。

 テレワークの場合、同じ部署やチームの社員それぞれが自宅など離れた場所で働いている。社員が1人でパソコン作業を続ける時間も多くなりがちだ。

 2020年4月から2021年6月までの間、社員のテレワーク率97%以上を維持しているイーブックイニシアティブジャパンでもテレワーク環境下での社員同士のコミュニケーションを重視している。同社の辻靖執行役員最高執行責任者(COO)は「場合によっては1週間、社員が誰とも話をせずに仕事を続けてしまう」と指摘する。

誰とも話さないと生産性が低下、向上への一策が1on1

 1週間、誰とも話をしない状況が続くと、在宅勤務を続ける社員の孤立感が高まり、仕事の生産性の低下を招きかねない。イーブックイニシアティブジャパンでは上司と部下がWeb会議サービスを使って週1回、15分程度でもいいので必ず1対1の「1on1ミーティング」をするようにしている。

 辻執行役員COOは「上司と部下の1on1ミーティングの徹底は、在宅勤務環境の整備などと並んで、生産性や自律性を向上させるベースとなる施策の1つ」と位置付けている。

 他のテレワーク先進企業も1on1ミーティングを生産性向上策として重視している。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて2020年2月、テレワークに全面移行したNTTコミュニケーションズもその1社だ。同社の岩瀬義昌ヒューマンリソース部人材開発部門担当課長も「社員の生産性や自律性を高めるポイントの1つに、1on1ミーティングによる対話型マネジメントがある」と指摘する。

 NTTコミュニケーションズは2020年夏から経営層や部門長、部長といったマネジメント層を対象に、1on1ミーティングに関する研修を実施。その基礎を理解してもらった上で、担当する部署などで実践してもらっている。

部下から課題の解決策を引き出す対話型マネジメントが重要

 1on1ミーティングを大規模に展開する理由について、NTTコミュニケーションズの岩瀬担当課長は「従来、部下が直面している仕事上の課題の解決策は、上司が知っていることが多かったので、トップダウン型のアプローチが効果的だった。しかし、今は仕事を進めていく環境の変化が激しすぎるので、こうしたアプローチが難しくなっている」と指摘する。

 その一方で、「部下が自分なりの答えを持っていることが多くなってきたので、それを引き出すためにも1on1ミーティングによる対話型マネジメントが重要になってきている」(岩瀬担当課長)。

 岩瀬担当課長はさらに「情報収集にたけている部下と1on1ミーティングをすると、部下から最新情報を入手できるといった上司側のメリットも生まれる。より変化が激しい時代には、1on1ミーティングが有効だと考えて取り組んでいる」と続ける。

 医療機器などを手掛けるゲティンゲグループ・ジャパン(東京・品川)も2週に1回、最低でも月に1回は上司と部下の間で1on1ミーティングをするようにしている。同社の奥田幸江執行役員人事総務本部長によると、1on1ミーティングによって、上司が部下の仕事の状況を把握したり、部下が仕事上で困っていることを共有したりするコミュニケーションが定着しているという。

 こうした取り組みを続けてきたことで、「2021年1月に整備したジョブディスクリプション(職務記述書)を踏まえて、従業員が高い生産性で仕事を進めるために、自宅を含めてどこで働くのか、従業員に選択権を与えている」と奥田執行役員は説明する。

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