コロナ禍で、人々の「行動変容」が大きくクローズアップされた。厚生労働省は「新しい生活様式」として、ソーシャル・ディスタンシングや手洗い、マスクの着用、「3密」の回避を国民に訴え続けている。いずれも公衆衛生上の生活習慣であり、保健所が主体的に取り組むテーマといえるだろう。情報化が進んだ現代では、様々なメディアを通して「新しい生活様式」の必要性が呼びかけられ、一定の効果を上げている。
しかしながら、時間軸をもう少し長く取って行動変容を考えると、情報発信だけではそれが定着しないことに気づくだろう。人々が情報に接して新知識を得て、やり方を変えてみて効果を実感、その上で納得しなくては、行動変容は持続しない。そのためには人々の中に飛び込んで導くメンターが必要なのだ。
戦後、保健婦(現在の保健師)が地域の「病気の予防・治療」という明確な使命を掲げて、人々を導いたことはよく知られている。私が山村の診療所に赴任した当時、その地で長く保健活動に携わってきた“伝説的”な保健婦から、「若妻会」を組織して様々な活動を展開したことを聞いた。若妻を姑の監視下からしばし解き放ち、寄り合いに集めるだけでも大変だったという。保健婦はまさに地域の要石だったといえるだろう。
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著者プロフィール
色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。
連載の紹介
色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。
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