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 経営体質の強化に向けて設計革新を進める富士ゼロックス。その陣頭指揮を取るのは、2018年に社長に就任した玉井光一氏である。現場で自ら図面を引いてコスト削減案を示すこともあるという同氏に、技術者の育成について聞いた。(聞き手は高野 敦=日経クロステック)

現場に高い目標を求めている。

玉井氏 富士ゼロックスに来て、「目標設定は正しいのか、甘いのではないか」という疑問があった。私のバックグラウンドは機械工学なので、開発期間をもっと短くできる、性能をもっと高められると思った。もちろん、現物を見た上での判断だ。

 「改善」「改革」という言葉があるが、改善は2~3割よくなる程度。それだけでは他社と差が付かない。当社は来年(21年4月)、社名を「富士フイルムビジネスイノベーション」に変更する。それは、顧客のビジネス全体を改革するような会社でありたいからだ。改革というなら、生産性を2倍にする、開発期間やコストを1/2にするレベルを目指さなければならない。そうなると、仕事のやり方をゼロベースで見直すようになる。

 2倍とか1/2とか、口だけなら誰でも言える。現場にリアリティーを持ってもらうために、私は具体的に提案する。例えば、レンズを組み立てる自動機では、タイミングチャートを自ら書いて生産性が2倍になることを実証した。ただし、「玉井さんだからできるんだよね」で終わらせないようにするために、皆にやらせるようにしている。最初のうちは提案がなかなか出てこないし、出てきてもたいした提案ではない。だけど、繰り返しやらせると、2倍、1/2にするにはどうすればよいかを考えるようになってくる。

ホワイトボードに絵を描いて説明する玉井氏(出所:富士ゼロックス)
ホワイトボードに絵を描いて説明する玉井氏(出所:富士ゼロックス)
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 早く決めることも大事だ。間違っていても構わない。何も手を打たないのが一番よくない。もし間違っていても、すぐに軌道修正をかけるようにしている。私の場合、横浜(研究開発拠点のある横浜みなとみらい事業所)で指示を出した後、本社に帰ってきてから「やっぱりやめよう」となったこともある。朝令暮改があまり多すぎるのはよくないが、とにかく早く決めるようにしている。

目標はどう決めるのか。

富士ゼロックス代表取締役社長、富士フイルムホールディングス(以下、富士フイルムHD)取締役副社長。1952年生まれ。東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻(現精密工学専攻)にて論文により博士(工学)の学位取得。2003年、富士写真フイルム(現富士フイルムHD)入社。11年、富士フイルムHD取締役執行役員、富士フイルム取締役常務執行役員メディカルシステム事業部長。13年、富士フイルムHD取締役執行役員、富士フイルム取締役専務執行役員。16年、富士フイルムHD取締役執行役員兼チーフ・イノベーション・オフィサー(CIO)、富士フイルム取締役副社長兼CIO。17年、富士ゼロックスに代表取締役副社長として入社。18年、富士ゼロックス代表取締役社長、富士フイルムHD取締役副社長に就任。現在に至る。(写真:加藤 康)
富士ゼロックス代表取締役社長、富士フイルムホールディングス(以下、富士フイルムHD)取締役副社長。1952年生まれ。東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻(現精密工学専攻)にて論文により博士(工学)の学位取得。2003年、富士写真フイルム(現富士フイルムHD)入社。11年、富士フイルムHD取締役執行役員、富士フイルム取締役常務執行役員メディカルシステム事業部長。13年、富士フイルムHD取締役執行役員、富士フイルム取締役専務執行役員。16年、富士フイルムHD取締役執行役員兼チーフ・イノベーション・オフィサー(CIO)、富士フイルム取締役副社長兼CIO。17年、富士ゼロックスに代表取締役副社長として入社。18年、富士ゼロックス代表取締役社長、富士フイルムHD取締役副社長に就任。現在に至る。(写真:加藤 康)

玉井氏 複合機でいえば、表に出てくる性能だけではなく、背後にある性能も重要になる。当社は今後、OEM(相手先ブランドによる生産)を積極的に推進する。既に国内外の競合他社から依頼がある。私は、先方の経営者に「なぜ当社にOEMを依頼するのか」と尋ねた。すると、堅牢(けんろう)性、ロバストネスが評価されていることが分かった。

 例えば、複合機の試験に、高湿度環境で紙がジャムらない(詰まらない)かどうかを検証するものがある。当社の複合機は湿度が相当高くてもジャムらないという。サイバー攻撃や電気ノイズへの耐性も同様に評価が高い。いずれも、ロバストネスに関わるものだ。

 つまり、表面的な性能にはほとんど差がなくても、根底のロバストネスに大きな差がある。ロバストな複合機は実使用環境でのトラブルが少ないので、手離れがよく、収益性に効いてくる。そういう部分をさらに強化していきたい。

そのための技術者をどう育成するか。

玉井氏 技術者は、ずっと同じものを作りたいわけではない。マイナーチェンジでは技術者は育たない。だから、世界初を目指す「ゲームチェンジモデル」の開発を始めた。世の中にないものを作るとなれば、技術者は燃える。ゲームチェンジモデルは、機種数としてはそれほど多くないが、携わっている技術者は目の輝きが違う。技術者のポテンシャルを高める場だと思っている。

 横浜で毎週月曜日にゲームチェンジモデルの会議があり、私も毎回出席している。ゲームチェンジモデルというだけあって、そんな簡単にはできない。トラブルだらけだが、だからこそ技術者が伸びる。