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予防医療による雇用創出目指す注目のプラン

2021/05/31

 新型コロナウイルス感染症は、医療にも経済にも大きなダメージを与えている。日本は頼みの綱のワクチン接種が遅れ、感染が収束しない。ワクチンが普及して元の生活に戻りつつある欧米との隔たりを感じざるを得ない。結果的にコロナは日本の弱みを次々とクローズアップした。もう日本という国は対症療法では再生できないのではないか。根治治療は何だろう。

 と、思っていたところで、いい本を見つけた。『日本再生のための「プランB」』(集英社、2021)である。著者の医療経済学者・医師の兪炳匡(ゆうへいきょう)氏は、米国のハーバード大で修士号、ジョンズ・ホプキンス大学にて博士号を取得し、米国疾病予防管理センター(CDC)ヘルス・エコノミスト、カリフォルニア大学准教授(終身職)などを経て、昨年、25年ぶりに日本に帰国。現在は神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センター教授を務めている。

 出身は大阪市で北海道大学医学部を卒業し、臨床経験を積んだ後、自然科学を学ぶだけでは不十分と考え、社会科学としての医療経済学を学ぶために渡米、米国籍を取っている。日本と米国の社会を形作る根源的な原理・価値観の違いに通暁した医療経済学のプロフェッショナルといえるだろう。

 まず、本書で「プランA」と呼ぶ、日本の再生論の大筋は過去30年間、ほとんど変化していないと兪氏は指摘。それは、米国や諸外国のIT産業、バイオ技術産業、金融分野の大企業などの成功例を「つまみ食い」的に模倣すれば、日本でもそれに続く企業がどんどん出て、経済成長率が大幅に改善する、との青写真を指す。

 だが兪氏は、プランAが10年以内に大成功することはない、とみる。「なぜなら、プランAの多くは、前提条件の整備だけで10年以上かかり得る上、巨額な先行投資が必要で、成功確率が極めて低いためです。私の最大の懸念は、プランAは、仮に成功しても『日本の全住民の衣食住を充足させる』ことに貢献しないことです」と喝破する(同書p.7-8)。

 プランAがもしも成功したとしても、日本の全住民の衣食住を満たすことにつながらないとは、どういうことか。同書で引き合いに出されているのが、現実にプランAで「成功」している米国カリフォルニア州の例だ。

 「経済的利潤は、成功している企業の幹部クラス(個人)と株主(いわゆる「1%」に属する最上位の富裕層)に手厚く分配され、同じ企業内の一般従業員や企業が立地する地域にすら恩恵が行き渡りません」(p.72)。成功した企業の付加価値に占める人件費の割合=「労働分配率」は1980年代以降、多くの先進国で低下しているという。

著者プロフィール

色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。

連載の紹介

色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。

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