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 東洋ゴム工業(現・TOYO TIRE)がデータを偽装した免震ゴムを使用し、解体が決まった福岡市内の超高層賃貸マンション「カスタリア大濠ベイタワー」の譲渡先がTOYO TIREだったことが2021年10月25日までに分かった。取得価格は37億4000万円。免震偽装の責任を取って自らマンションを買い取るという異例のケースとなった。

 売り主は大和ハウスリート投資法人。同社は21年6月に売却を発表したものの、買い主を明らかにしていなかった。

 カスタリア大濠ベイタワーは06年に竣工した地上30階建て、延べ面積1万6111m2の賃貸マンションで、賃貸可能戸数は215戸。大和ハウス・レジデンシャル投資法人(現・大和ハウスリート投資法人)が13年に29億1000万円で不動産信託受益権を取得した。REIT(リート)物件で、分譲ではなく全戸が賃貸だ。資産運用は、同社から委託を受けた大和ハウス・アセットマネジメントが担ってきた。

解体されることが決まっている「カスタリア大濠ベイタワー」(写真:日経クロステック)
解体されることが決まっている「カスタリア大濠ベイタワー」(写真:日経クロステック)
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 その後、15年に東洋ゴム工業による免震偽装が発覚。問題の免震ゴムが同マンションでも使用されており、大和ハウスリート投資法人や東洋ゴム工業などの関係者は当初、免震ゴムの交換を計画していた。

 ところが、何らかの理由で改修を断念した。大和ハウスリート投資法人がマンションの売却を発表した直後の21年7月、物件の管理会社であるミヨシアセットマネジメント(福岡市)が「解体せざるを得ないという結論に至った」として住人に退去を求めたのだ。賃料の6カ月相当額を移転補償費として支払うとの通知を受けたある住人は日経クロステックの取材に、「改ざん問題の発覚後、TOYO TIREやオーナーなどの関係者が住戸を回って『交換する』と説明していた。いきなり解体と言われても」と困惑の表情を浮かべていた。

 TOYO TIREは不動産信託受益権を取得して実質的な所有者となり、今後は解体を進める方針だ。「解体は、所有者や管理者、当社などの関係者が慎重に議論を進めた結果であり、(受益権を取得したからといって)その方針を覆すことはない」(同社コーポレートコミュニケーション部)としている。