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 ソフトバンクが人工衛星や無人航空機を活用した非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network、NTN)の構築を急いでいる(図1)。空から地球を覆うネットワークを生み出すことにより、今まで通信環境が整えられていなかった場所までインターネットが利用できるようになる。同社の戦略で特徴的なのは、「三種の神器」と呼ぶタイプの異なる3つの非地上系ネットワークを組み合わせる点だ。月500円以下のIoT(Internet of Things)向け衛星通信のほか、スマートフォンをそのまま利用できるサービスなどを用意する。起業家のElon Musk(イーロン・マスク)氏の衛星通信サービスなど、並み居る強豪を前にしたソフトバンクの勝算に迫る。

図1 非地上系ネットワークのイメージ
図1 非地上系ネットワークのイメージ
「三種の神器」と呼ぶ、異なるタイプの非地上系ネットワークを組み合わせて通信環境を構築する。(ソフトバンクの図を基に日経クロステックが作製)
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 「インターネットに触れてこなかった35億人に通信を届ける。地上に鉄塔をつくり世界中の通信網を構築すると非常に多くの資金が必要になる。そこで空からネットワークを構築し、効率的にネットワークをつくる」――。ソフトバンクで非地上系ネットワークを含む、グローバル戦略を統括するグローバル事業戦略本部本部長の北原秀文氏はこう力を込める。

 ソフトバンクは「Beyond Japan」というスローガンを掲げ、国内通信事業中心のビジネスからグローバル市場に進出する成長戦略を示す。その成長戦略の柱になるのが非地上系ネットワークだ。日本ばかりでなく海外をサービスエリアにできる人工衛星や無人航空機を利用したネットワークを使い、将来的に数兆円規模のビジネスに広げる考えだ。

 非地上系ネットワークを推進していく上で重要になるのが、同社が「三種の神器」(同氏)と呼ぶ、3つのタイプの異なるネットワークである。具体的には、高度20kmの高高度に無人航空機を飛ばしLTEや5G(第5世代移動通信システム)などの通信サービスを提供するソフトバンク子会社のHAPSモバイル(東京・港、以下HAPS)。高度1200kmの低軌道に多数の人工衛星を周回させて高速・低遅延な衛星ブロードバンドサービスの提供を狙う英OneWeb(ワンウェブ)。最後は高度3万6000kmにある静止軌道衛星を運用する英Inmarsat(インマルサット)から衛星通信の帯域を借りてサービスを提供する米Skylo Technologies(スカイロテクノロジーズ、以下Skylo)という、3つの企業の技術を活用したネットワークである。

 なぜ3つもの手段を用意するのか。北原氏は「それぞれ特徴が異なり、3つのネットワークを適材適所で使うことで、さまざまなユースケースに対応できるからだ」()と打ち明ける。

表 非地上系ネットワークの比較
表 非地上系ネットワークの比較
(出所:日経クロステック)
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スマホをそのまま使える「HAPS」、直径200kmを1基でエリア化

 まず三種の神器で一番低空を担うのがHAPSモバイルだ(図2)。HAPSの最大の特徴は、専用端末が必要なく、一般的なスマートフォンでダイレクトに利用可能になる点である。無人航空機にLTEや5Gの基地局を載せて、高度20kmから直接、携帯電話のエリアをつくる。無人航空機で整えられる通信範囲は地上局より広範囲な直径200kmほどになる。地上局と同様の高速・大容量通信が可能で、遅延時間も地上局と比べて遜色がないという。

図2 HAPSモバイルが実際の成層圏飛行に用いた無線装置(ペイロード)
図2 HAPSモバイルが実際の成層圏飛行に用いた無線装置(ペイロード)
(出所:日経クロステック)
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 利用用途としては「モバイル通信環境が整っていない地域への通信サービス提供のほか、低遅延を生かして空飛ぶクルマなどモビリティー用途も考えられる」(北原氏)。日本全体をHAPSでカバーする場合、40機ほどの無人航空機を必要とするという。