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 品質問題が社会問題化して数年経過したが、新たな問題の発覚が後を絶たない。品質問題の根本的な原因は何か。元ソニー設計者で中国市場に詳しい小田淳氏に聞いた。(聞き手は岩野 恵、高市清治、中山 力、近岡 裕)

なぜ品質問題が起こるのでしょうか。

小田氏:「品質」に影響を与えるものとしては、次の2つがあると思います。1つは技術の良しあし、もう1つは仕事の仕方の良しあしです。

 一般に日本製品の品質が良いと言われるのは、主に技術に関する品質が高いからだと思います。例えば「壊れにくい」といったように、消費者が手にした製品に対して評価する品質です。日本にはこのような製品を設計する高い技術があります。設計だけでなく、製造する技術に基づく品質もあります。設定した品質の製品を造り続ける力です。特に大量生産品において、消費者がどの製品を手に取っても期待した品質が得られるという安心感につながります。製品を同じように造り続ける点が日本は優れていると思います。

小田淳氏
小田淳氏

近年の品質不正は仕事の仕方が原因

小田氏:近年注目が集まっている品質問題、特に品質不正の問題は今述べたような日本の技術力の低下によるものではありません。仕事の仕方の問題だと考えています。品質データを改ざんしたり、認証取得のために偽のサンプルを提出したりしたメーカーは、モラルやルールを守る体質になっていなかったのです。このような品質問題が相次いで表面化している理由は大きく分けて4つあると思います。

 1つは発覚しやすい環境になったためです。上司と部下や他部門とのしがらみが以前と比べて希薄化し、周囲に忖度(そんたく)しないで告発しようと考える人が増えているのではないでしょうか。2つ目としては、技術革新や環境規制など法規制の変更、低コスト化や軽量化といったさまざまな要因で、要求品質が厳しくなったことが挙げられます。従来の手法で造り続けているだけでは不適合になってしまう可能性があります。

 それとは逆の意味になりますが、3つ目は標準規格の要求レベルや社内で定める安全率などの基準が高すぎるという実態です。要求品質が高すぎるという認識がまん延し、どこかの段階で基準を満たさなくても問題は起こらないであろうと見過ごしてしまう。実際、材料がJIS規格を満たさなくても、部品や製品になった段階での試験をクリアできれば不良品は出ません。

 最後に、コミュニケーションの問題が考えられます。例えば既に販売している製品の規格が変わったとき、量産中の製品についても規格を満たすものに変更すべき場合と、次の新製品から対応すれば良い場合があります。ルールが複雑で末端の担当者には口頭で伝わることも多い。この伝達の過程でエラーが起こりやすいのです。