コロナ禍、ウクライナ問題、米中貿易摩擦、物流2024年問題など、サプライチェーンを取り巻く環境は大きな変化を迎えている。ESG(環境・社会・ガバナンス)対応などの新たな取り組みも求められ、SCM(サプライチェーンマネジメント)部門は迅速に対応していく必要がある。本稿ではそれらの事象をひもとき、最適な答えを見つけていくための手法について説明する。

SCM部門の悩み

 経済産業省が取りまとめた2021年版の通商白書の第II部では、サプライチェーンにおけるリスクと考慮事項の多角化が述べられている。また、リスクへの対処として、今までの「ジャスト・イン・タイム」に対し、「ジャスト・イン・ケース」という概念の必要性を説いている。これらの論説からは、SCMの定石や勝ちパターンが多様化していることを強く認識させられる。企業のSCM関係者は日々の変化に直面し、自社のサプライチェーンがこのままで良いのか悩むことが多いだろう。

 この通商白書にはデジタル活用の説明があり、将来テーマ(ステージ3)として、「顧客ニーズ変化やリスクへの対応として経営判断に反映」というテーマが挙げられている。筆者は様々な企業と接する中で、サプライチェーンの改善や改革の企画に対して、プロセスとデータ活用を確立している会社は少ないと感じている。リスクと考慮事項の多角化が進む中、サプライチェーンに関する企画業務や課題検討にデジタルを活用することは早急に取り組むべきテーマである。以降では、その意義を説明する。

[参考] 通商白書2021年版 第II部 第1章 第4節 デジタル技術の活用によるサプライチェーンの強靱化(経済産業省)

変化への迅速な対応と構造的見直しの両立が必要

 まず、サプライチェーンに関する現状と課題について具体例を示しながらおさらいしたい。

 グローバル化が進む製造業では、コロナ禍によって需給が一層不安定になり、増産・減産が繰り返されている。また、国際物流の逼迫によって、輸送コスト増やリードタイム長期化のリスクに対する管理の重要性も増している。さらに、昨今の貿易摩擦や新貿易協定には、関税で製造コストの地域差が逆転するほどのインパクトがある。

 何を、どこで、どの程度つくり、どのように供給すべきか。短期的な意思決定も、中長期的な設備投資計画も、判断の遅れと不正確さが致命傷になりかねない。リソースの非効率化を招き、コストの垂れ流しにつながるからだ。最近は、地政学リスクの影響によって部品供給が突然止まってしまうこともある。こうした事態にも素早く正確に対応しなければならない。サプライヤー変更や在庫の積み増しも検討する必要があり、グローバル企業は難しい判断を迫られている。

 国内では、冒頭に挙げた物流2024年問題が懸案事項として浮上している。ドライバーの労働時間規制の厳格化によって生じる問題である。これにより、豊富なリソースと割安なコストを前提としていた物流ネットワークに対して、見直しを図ろうとしている企業は多い。コストはおろか、運べないリスクが顕在化しているからである。

 こうしたリスクを軽減するため、輸送距離短縮に向けて、地産地消を推進する生産体制への移行などが検討されている。こうなると、これまで重視していた生産効率をどの程度犠牲にするかについて考えていかなければならない。また、得意先と調整してリードタイムや欠品率の条件緩和の同意を得ることで、輸送効率を高める方法も考えられる。物流だけでなく生産・営業まで視野を広げると、様々な解決の可能性が見えてくる。

 このように、サプライチェーンの課題を解決するためには、様々な角度から対策を検討する必要がある(図1)。しかし現実には、考慮すべき事項を俯瞰(ふかん)できず小手先の対応にとどまっていたり、目を背けてしまっていたりすることが多いのではないか。様々な企業と接してきた経験から、筆者はそう考えている。

図1 サプライチェーンにおける多角的な考慮事項
図1 サプライチェーンにおける多角的な考慮事項
(出所:アビームコンサルティング)
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