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 住宅ローンの歴史的低金利が続く一方で、2021年10月には首都圏の新築マンションの平均価格が、バブル期である1990年同月を超えて過去最高を記録した。住宅価格の高騰は2022年も続くのか。住宅ローン減税の控除率が引き下げとなるなか、22年の住宅市場の見通しは。テクノロジーを利用して最適な住宅ローンを提供するiYell(東京・渋谷)で代表取締役社長兼CEOを務め、全国の金融機関の住宅ローンを毎日注視し、「日本一住宅ローンに詳しい男」と呼ばれる窪田光洋氏に見通しを聞いた。(聞き手は島津 翔=日経クロステック)


住宅ローンは歴史的な低金利が続いています。改めて近年の傾向を教えてください。

窪田光洋・iYell代表取締役社長兼CEO:住宅ローンには「基準金利」と「優遇金利」があります。ベースとなる基準金利はこの十数年、ほとんど変動していません。多くの銀行が、変動金利の基準金利を現在は2.475%に設定しています。一方、世の中で「金利が下がっている」というのは、この基準金利から「優遇」する幅が大きくなっていることを指しています。金融機関のいわゆるキャンペーンですね。優遇幅が大きくなると消費者は当然、安く借りることができる。

 10年前の優遇金利は1.5%程度でした。それが今は2.0%が当たり前の状況になっている。基準金利の相場は2.475%ですから、実際の金利は0.475%になります。私の知っている限り、21年12月下旬時点で最も低い金利は0.285%です(編集部注:インタビューは21年12月21日に実施した)。

窪田光洋・iYell代表取締役社長兼CEO
窪田光洋・iYell代表取締役社長兼CEO
青山学院大学経営学部卒業。2007年、SBIホールディングス入社。SBIモーゲージ株式会社(現アルヒ株式会社)にて最年少執行役員に。16年5月に住宅ローンテックベンチャーiYell(いえーる)株式会社を設立。同社代表取締役社長兼CEOに就任。マイホーム購入の要となる住宅ローンビジネスを展開。住宅ローンの業務効率化アプリ「いえーる ダンドリ」は2000社以上の住宅事業社に導入され、多くのユーザーに最適な住宅ローンを紹介し続けている。「日本一住宅ローンに詳しい男」の異名を持つ(写真:日経クロステック)
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「2022年にローン金利は100%上がらない」

 金融機関はマネーの貸出先に困っており、住宅ローンか国債くらいしか選択肢がない。国債は金利が安過ぎるので、なんとか消費者に住宅ローンを借りてほしい。その結果、この数年で優遇金利は過当競争になっています。

 どの銀行も金利の限界に突入していて、これ以上、金利が下がることはないでしょう。今日もある金融機関の幹部と打ち合わせをしてきたのですが、「これ以上は絶対に下げられない」と言っていました。

逆に、22年にローン金利が上がる可能性は?

窪田:あくまで予測なので断言したくはないのですが、22年に限ってという条件付きでは「100%ない」とみています。シンプルに言えば、貸したい人が多ければ金利は下がり、借りたい人が多ければ金利は上がる。22年はまだ前者のフェーズです。

 例えばゼロ金利政策が解除されて国債が上がった場合に、ローン金利も連動して上昇する可能性はあります。ただし、米国の金融政策を決める連邦準備理事会(FRB)でさえ解除は23年と言っている。日本は遅効性があるので、それよりさらに先になるでしょう。

金利以外の面で、住宅ローンの近年の傾向は?

窪田:21年は金利競争より保険競争の側面が強かったように思います。金利を限界まで下げているので、それ以外の部分で競争が激しくなっている状況です。

 例えば以前の団体信用生命保険は「亡くなった場合に住宅ローンを弁済する」という保障制度でしたが、最近では「がんになった際に弁済する」「三大疾病にかかった場合に弁済する」といった保険が登場しています。金利は同じでも保険の充実度で差別化を図っているのが実情です。

既に住宅ローンを借りている人が検討すべきことは?

窪田:5年よりも前に借り始めた方は、借り換えを検討すべきでしょう。優遇幅が小さい時に借りているわけですから。どの住宅ローンを選んだか、繰り上げ返済をどの程度しているかにも寄りますが、場合によっては月々の返済が数万円下がる可能性があります。ローンを借りたのが10年以上前なら、ほぼ全ての方が借り換えるべきだと考えています。